コラム

ホルモン投与がこわい?

GIDの診断がおりているのに、なかなか次のステップに進まない方がいます。もちろん、学業や仕事、家庭の都合上の理由で出来ない方がいるのも事実です。
「まだ決心がついていないからです」
こういった理由の方が多いように感じます。

今回は、Lさんにインタビューをしてきました。
Lさんは、カウンセリングを1年受けた後にGIDであるという診断書を受け取りました。しかし診断書取得後8カ月経ってから男性ホルモンの投与を始めたようです。
その8カ月の空白と、その頃の心境についてお話を聞いてきました。

Q“なぜ診断書取得後、すぐに男性ホルモンを投与しなかったのか?”

世間一般的な意見としては、「出来るようになったのであれば、すぐにでもしたい(ホルモン治療を)ものなのではないでしょうか。

「GIDと診断を受ける前は、理想の男性像が漠然と自分にあって、しかもその理想が自分の全てという世界で、“自分”が“女性である”という、よくわからない現実を生きていました。
そのため、なぜ自分の身体が男性的でないのだ!という漠然とした疑問を抱いてました。裏をかえせば、“男性的な身体になりたい、男性的な身体であるべきだ”という願いとか欲望があって、“声を低くしたい、骨ばった骨格がほしい、毛を濃くしたい”という欲ではなかったということです。
“ホルモン投与=男性的な身体になる“とは考えられなかった、自分の気持ちの中では一致しなかったためだと感じています。
男性ホルモン投与に対して違和感があったので、決心がしきれなかったのではないでしょうか。

Q“ホルモン投与を受ける”決心とは?

何の決心が必要なのかを更に詳しく聞いてみると、以下のような返答を受けることが出来ました。

「こわい」
「副作用がこわい」

共通していることは“何かに対して恐怖心がある”ということでした。

(実は僕自身も、GIDの診断を受けてからホルモン投与を受けるまでに5カ月ほどの空白がありましたが、僕自身もはっきりとした理由はありませんでした。
ただ、診断書を受け取った時点で、心が少し落ち着いたというのは確かにありました。)

Q“では、男性的になれるのに、なぜホルモン投与をしないのか?”

ホルモン投与を始めることで、声の高さや体型などの女性らしさを変えることが出来ます。
それぞれが声の高さや女性らしい身体つきに嫌悪感を抱いているにも関わらず、なぜすぐに始めないのか?
もちろん、“GIDの診断を受けたら直ちにホルモン投与をしなくてはいけない”というわけではないですし、急ぐ理由もありません。ですが、男性として見られたいと願うのであれば、すぐにでもホルモン投与を行うことがベストです。

このように、少し視点を変えて質問をしてみると、以下のような率直な返答をいただけました。

「気持ちの整理がついたらすぐにホルモン投与を始めることができるのと、GIDの診断を受けてからホルモン投与を始めるという流れを比べると、“待つ”という観点で見たら前者の方が気楽です」とのこと。

なるほど。納得してしまいました。
自分の性別に違和感を感じるのに、その違和感が何なのかがわからない時間が、当事者にとってはとてもストレスになりますね。
まずはこのストレス緩和するために診断を仰ぐということですね。

「FtMであっても、そうでない人でも、気持ちの切り替えが一瞬で出来る人はほとんどいません。怒られたらシュンとなるし、悲しい映画を観て泣いたらしばらくは沈んだ気持ちになります。
この現象と似ていて、GIDの診断を受けてから今まで以上にホルモン投与について、現実的に考えて向き合うことが出来るようになります。
“男性ホルモンを投与すれば、いままでの自分を変えることが出来る”
これは紛れもない真実であり、絶対の変化が約束されています。そして、誰に言われるのでもなく、自分の決断のみで行うことが出来ます。

少なからず、十数年過ごしてきた“自分”なので、それに関しては情もあります。家族のことを考えると、なかなか踏み切れないという気持ちにもなります。

Q“いつまでも我慢できるものなのか?”

心は男性なのに外見は女性のままだと、何も事情を知らない周囲の人からは、厳しい視線を浴びることもよくあると思います。当事者であるほとんどの人が、いわゆるこのような”偏見の目“に大変心労しているのが現実ですが、これに耐え続けることはできるのでしょうか。
このような疑問をぶつけてみた。

「もちろん、声も身体も女性のままでは、女性扱いを受けた時に辛いと感じることは多々ありました。しかし、先ほどもお話しましたが、まずは“GIDである”という診断を受けた時点で、今までしっくりこなかった何かを“GID”として自分で納得することが出来たのが進歩であり、少し自分に自信を持つことが出来たのだと考えています。
自分に自信が持つことができると、人間はその時の自分を受け止めることが出来ますからね。

しかし、外見は何も変わっていないので、現実の自分を感じるたびに、ギャップに苦しめられます。この苦しみから回避するには男性ホルモン投与という治療を受けなければいけないと初めて身に染みるわけです。それがキッカケとなり、ホルモン投与のことをしっかり学ぶことが増えます。
そして次の治療のステップへと移行する(身体を男性に近づける)決心がついてくるのです。」

インタビューはここから手術にむけての話になるため、ここでは割愛させていただきます。

「ホルモン注射の副作用に対する恐怖とは何なのか?」
Lさんのお話を深く掘り下げていった結果、しっかりと自分の中で感じた違和感を見つめることで、次の治療へのステップを踏み出すことが出来るというヒントを浮き彫りにすることが出来たように感じました。

10年前よりも明らかに治療を組み込む病院も増えていますし、簡単に男性ホルモンの投与を受けることが出来るようになっています。
カウンセリングを受けずに自由診療として、自分を信じて治療を進める人ももちろんいますが、情報がたくさんありふれている現代だからこそ、自分の中の違和感にしたがって一旦治療の休憩をとるのも、1つの自分や時代との向き合い方かもしれませんね。

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